水浴び ―古い記憶を辿ってー
7月も中旬、そろそろ夏休みに入る頃。
水泳の許可がお昼の学校放送から流れると、すごい歓声が周りの教室から聞こえた。
放課後が待ち遠しくてたまらない。
午後の授業なんかもう上の空。気持ちはもう水浴びのことで頭がいっぱい。
近所の友人たちと前川へ急ぐ。土手向こうの川から泳いでいる子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
ジリジリと照りつける真夏の太陽。
川の匂いと共に駆け上がりから落ちる水の音が聞こえてくる。
土手に上がるとたくさんの子供たちがドボン、ドボンと水しぶきを上げながらはじけるような奇声を上げて泳いでいる。
(イラストは、上山市金生地区にある「東宮橋」からの飛び込み。)
カラフルな女の子の水着、男の子はたいてい黒色の褌(ふんどし)だった。
準備運動は必ず行ったもので、次に耳孔に脱脂綿を詰めるのだが唾液を流し込むのが常だった。
すぐ水に入らないで胸、頭そして体全体に水をかけてから水中に入る。始めはとても冷たく、やがて慣れると温かく感じてくる。
程よく泳いでいると唇が紫色に変色する。チアノーゼだ。しばらく休憩を取る。
駆け上がりの下の大粒の石に腰を掛けるとやけどをするほど熱かった。
周りにある泥岩の欠片を拾ってきて水を付けて他の平たい石と擦るとどろどろとした“絵具”ができる。それを友人から背中にペイントしてもらう。見事な“作品”もあれば、とんでもない笑いのタネになるものも描かれる。
自分には見えないのである。
誰かが「マゴダラムス居だー!」と叫ぶ。ヘビトンボの幼虫(マゴタロウムシ)である。この虫は顎が発達しており、咬まれると赤く腫れ上がるから要注意だ。私は咬まれたことはないが、近くに現れて逃げようとすると水流に引き込まれて追いかけて来るのでとても怖かった。
泳ぎ疲れて家路につく。耳に入った水が取れないと頭の中で“太鼓が鳴る”。
ばい菌に冒されれば中耳炎にもなり兼ねないが、一度も罹ったことはない。
家に帰った後で食べるスイカや氷水は格別に美味しかった。
(寄稿者:桜井和敏)